宇宙原理があなたの中を貫流する

このブクロを通じて宇宙を網羅する基本法則を提示していきたい。

第六章 変化へ開く受容・開放と現状維持の対決・閉鎖 [43]成長は挫折・絶望・限界・ニヒリズム(虚無感)からの克服によってもたらされる

[43]成長は挫折・絶望・限界・ニヒリズム(虚無感)からの克服によってもたらされる
[成長は挫折・絶望・限界から超越へ、死から再生へ、退行から進行へと進む]
◎太陽が夜になって沈み朝によみがえるように、成長は挫折・絶望・限界(前進の停止)から超越(上昇)へ、死から再生へ、退行から進行へと進む。成長のためには、(同一の地平での)横への動き(横滑り)を停止して、上への超越(上昇)に切り換える。
[徐々なるふくらむ成長と一段上位へ飛躍する成長]
◎とはいえ、小さな徐々なるふくらむ成長もあるが、今上で言ったのは新しい段階(階層)へ突入する飛躍の成長である。一段上位へ飛躍する成長である。例えば、毎日こつこつ勉強した生徒が、ある日進級して一つ学年が上がるような成長である。
[挫折は、直線的進行の阻止で、その地点で分岐する]
◎挫折は、直線的進行の途中での阻止である。直線的動きを止めると、その地点で分岐する。小川の流れの真ん中に大きな石を置くと、そこから水が分岐して中洲が生まれる。無意識の流れに杭(自我)を立てると、意識(主観)と無意識(客観)とに、好きと嫌いとに分岐(分別)する。自我はほっておくと意識と好きだけを選びたがる。
[順調に流れる無意識に停滞・限界・挫折・阻止が立つと、作用と反作用とに分かれる]
◎無意識が順調に流れる間は対立・矛盾は表面化しない。進行の停滞・限界・挫折・阻止が流れに立ちはだかると、作用と反作用とに分かれる。それによって覚醒する、強い意識が生じる、多くの場合感情(怒り)が目覚め自覚が生じる。それまでは無意識の中にまどろんむ、猫のひなたぼっこのように。ソクラテスは対話法によって眠った相手の挫折(覚醒)を目指した。
[不安定さがより高い秩序を導き出す]
散逸構造はいう。エントロピーの法則からいえば無秩序が増大する場面でも、それに反して新しい秩序が生まれることがある。微細なゆらぎを補正して安定な構造に達する。しかしさらに大きなゆらぎが生まれると新たに不安定さが生じる。その不安定さから予測不可能なさらに高度の秩序を持った構造が発生する。これは正反合の弁証法的展開ともいえる。
[修行者の心中に対立・矛盾を生み出し、それを止揚することで高次へ発展する]
公案も修行者に対する阻止・限界・挫折をもくろんで与えられる。それが修行者の心中に対立・矛盾を生み出し、それを止揚することで高次なものへ発展する。公案を工夫させることによって、日常的(常識的)思考を超えた、さらには思考そのものをも超えた境涯へと修行者を導く・駆り立てる。
[自然界では上位機能が停止すると、一段下がった下位機能が主導権を持つ]
◎挫折は幹・枝が途中で芽吹いて分岐する。今までそこに注がれていた栄養(心理的エネルギー)の流れは高きと低きとに分岐する。成長のためには低き流れ(悪)は阻止しなければならない。通常自然界では上位機能が停止すると、一段下がった下位機能が主導権を持つ。
[指導者は広い包括的な視野を持つ]
◎下降する流れを如何に阻止するかが指導者の役目であり力量である。師・親・上司・指導者(上位システム)は、弟子・子・部下・学習者(下位システム)より広い包括的視野を持つ拠点である。より広い視野からの指導が必要とされる。
[指導者は下降気流に壁として立ちはだかり、上昇気流に方向転換させる]
◎上昇気流を結合・愛・創造と、下降気流を分解・憎・破壊という。私のような俗物は下降気流に乗りやすい。それ故指導者は下降気流に壁として立ちはだかり、それを上昇気流に方向転換させねばならない。下降気流による無意味な破壊は防がねばならない。
[苦難(挫折)は再生・復活・創造(上昇気流)に至る転換点]
◎苦難(挫折)は再生・復活・創造(上昇気流)に至る転換点(臨界点)になりえる。その際に無力感・虚脱感・絶望感が生まれるのは執着(自我)からである。無常(世の中は常に動き、永遠の変化をもたらす)を事実(自然な流れ)だとして受け入れるならば、そのような感情は生じない。もっとも自我がなければ、初めから苦難(挫折)は苦難でなくなるが。自我が「苦難だ苦難だ」と声高に叫びたがる。
[不安と無根拠は去ってしまった権威を捜し求める]
◎評論家唐木順三(1904-1980)は、「無常」の中で、「不安と無根拠を感ずるとき、ひとは有常、恒常なるものを求める。絶対的なもの、権威を探す。そしてその絶対的権威によって自己の安定化を計る」という。
[無常に強く傾くと拮抗・補償作用として安定・恒常が求められる]
◎無常から来る不安・無根拠(根拠の崩壊)が表面化すると有常による恒常・安定(基盤・根拠)が裏面化するという分裂が生まれる。無常に強く傾くと拮抗・補償作用・反作用として安定・恒常が求められる。
[日本も維新後新思想を求めて苦しんだ]
森鴎外(1862-1922)・夏目漱石芥川龍之介などは、西洋(巨大氷河)との遭遇で、それとどう折り合いをつけるかで苦しんだ中から傑作を生み出していった。挫折・合流・統合の中で方向を探りつつ七転八倒しながら(過去を振り返り)日本の良さをも引き出して来た。
◎昭和に思想があったのだろうか。昭和を流れる・底流する思想は何だったのだろうか。軍力(第二次世界大戦)から経済力への転換とその繁栄(エコノミックアニマル)とそのバブル化。そのバブルが崩壊する少し前に昭和の終焉を迎える。
[文化は平和を素とする]
◎今平成時代の思想は何であろうか。私は「文化」を海外輸出する時代だと考えている。文化は平和を素とする、平和の上に花が咲く。聖徳太子の「和を以て貴しとなす」を日本の旗印にすべきではないかと思う。特に私は大阪の人間なので。すでに日本の文化が世界的に浸透しつつある。
[虚無主義は既存制度の崩壊後、新制度のまだ生まれ出ない歴史的転換期]
◎真理・価値・超越的存在を否定するニヒリズム(虚無主義)は、既存の制度・体系がなだれ・山崩れのように崩壊した後、新しい制度・体系・原理がまだ生まれ出ない歴史的転換期(空白・混沌・心の崩壊・理論の崩壊)である。
[虚無主義は幕間狂言である]
虚無主義は、弁証法的展開でいえば、正(既存の制度・体系・思想)が反(崩壊)したことを表し、次に新制度・体系・原理が誕生する(合)ことによって、背後に引き下がる。舞台装置を入れ替える間の暗転した幕間でしかない。
[転換期・空白期は、克服・乗り越え・超越方向と逃避方向とに分岐する]
虚無主義・歴史的転換期・空白期は、克服・乗り越え・超越(上昇気流)方向と逃避(下降気流)方向とに分岐する。現代における克服は、個人個人が自由を行使して主体的に価値・意味を選択してゆく実存主義(キルケゴール:1813-55)を生み出した。中世を体験したルネサンスは過去の歴史に退行してそこから必要なものをつかみ取って戻った、真珠貝を捕りに潜る海女のように。
[生きるには拠り所(判断基準)が必要]
◎有限である人間は完全無欠の真理・価値を創造できない。つねに現在の真理・価値は不完全で乗り越えられるべきものである。そうはいっても人間は何かを拠り所にして生きて行かざるをえない。動物は拠り所になる基準として本能を持つ。動物はその本能を疑うことを知らない。
[知識を持たずに生まれる大脳新皮質は判断の基準になる外在知識が必要]
◎幸か不幸か人間はその本能を乗り越えてしまった。厳密に言えば、完全には乗り越えておらず、本能と後得知識との狭間で苦悶している。知識を何ら持たずに生まれる大脳新皮質は判断の基準になる外在知識がどうしても必要である。それゆえに不完全とは知りつつも真理・価値(思想)を獲得・創造してゆかざるをえない。
[逃避は遠いかなたを見ようとはしない]
◎克服して新しい創造をしない逃避は、前にある暗闇からは目を背け、他人には目をくれずひたすら自分自身だけを見つめる利己主義、苦しみを忘れさせてくれる快楽に走る享楽主義、来るか来ないかわからぬ明日には目をつむって今日だけ今だけを見つめる刹那主義に向かう。遠いかなたを見ようとはしない。待ち望む心を持たない。
[時代の真理は生きる人間を守るが、成長を阻害する側にも立つ矛盾的存在]
◎エビやヘビは殻や皮を持つ。それは自分を守ってくれはするが、同時に自分の成長を阻害する面も合わせ持つ。同様にその時代の真理・価値もそこに生きる人間を守ってくれはするが、成長を阻害する側にも立つ矛盾的存在である。
[成長を止める永劫回帰(現状維持)を断ち切らねばならない]
◎成長を止める永劫回帰(現状維持・そのまま主義)をどこかで断ち切らねばならない。自らの意志で立ち切るのは至難の業である。そこで悪(悪魔・トリックスター)や虚無主義が顔を出す。
◎歩くためには、地面につけた足を持ち上げねばならない、足を地面から引き離さねばならない、足は地面を蹴らねばならない。
[極限・臨界は反転する地点]
◎もはや頼るものは何もないという虚無感は否定(破壊)の極限に到達したあらわれ、夜明けが一番暗い。しかし極限・臨界は反転する地点。前を見れば、何もないただの巨大な無(破壊の跡地=廃墟)が見える。逆から見れば、新たに建設可能な無限の潜在的可能性の荒野に立つ。イギリスに廃墟を見た清教徒たちはアメリカに無限の可能性を見た。いまだにアメリカは人々に可能性を夢見させる。とはいえ、その夢もしぼみつつあるが。
[ニーチェ虚無主義者ではなく、無限の潜在的可能性を見据える超人に出会う]
◎ドイツの哲学者ニーチェ(1844-1900)は廃墟で絶望感にとらわれた虚無主義者ではなく、無限の潜在的可能性を見据える「超人」に出会った。絶望する気持ちをも捨て去った所に新しい芽が吹く。
[種子が死んで麦が芽吹く]
◎「麦が芽ぐむためには種子が死なねばならない」とインドの政治家・民族運動指導者ガンジー(1869-1948)はいう。
◎種子(自我・下位階層・旧い体制)が死んで麦(自己・上位階層・新体制)が芽覚める。日本では赤ん坊が誕生すると、妻が死んで母が生まれる。とはいえ、最近では赤ん坊が生まれても母親が誕生しないことも多いが。
[デカルトも否定の極限に達したが、その地点を折り返し点(肯定の出発点)とした]
デカルトも思考の上で否定の極限に到達した。彼はしかし最初からその地点を折り返し点(肯定の出発点)と決めていたから絶望はなかった。あったとしても明るい絶望で、背後に光を背負う絶望である。振り向けば、一面のまばゆい光が射す。絶望した人は朝日を拝みましょう。