第十五章 絶対無を目指す宗教
[107]潜在的可能性の実現は、知性の意志化、意志の行動化
[種をまいて育てなければ結果は味わえない]
◎｢風性常住、無処不周｣といいながら禅師はうちわで涼を取る。風性(仏性)はあまねく存在する(すべての者が持つ)が、潜在的可能性なので、うちわであおが(実践して顕在化させ)なければならない、種をまかなければ結果は味わえないように。
[作用(自力)することによって反作用(他力)が返って来る]
◎新約聖書は、｢求めよ、さらば与えられん。尋ねよ、さらば見い出さん。たたけよ、さらば開かれん｣という。
◎求める･尋ねる･たたく行動を起こす(自力する)ことによって、他力(与える･見出す･開く)が働き始める、うちわであおぐことによって風性が現れる、作用することによってのみ反作用が返って来る。
[自然物も製作物も構造を潜在させている可能性が現実化される]
◎プラトンの弟子アリストテレスは、可能性が現実化する、質料(まだ規定されていない可能性としての素材)が形相(理念･構造･イデア)によって現実化する道筋を見出して、これをすべてに当てはめて解釈する。
◎自然物も製作物もすべてが形相を潜在させる可能態から現実化された現実態へ向かう運動の途上にあるとする世界観を導き出す。
[内在的･潜在的である→分化発展する→全体が実現されて完成する]
◎全体が含蓄的･内在的･潜在的である(可能態)→分化発展する→全体が実現されて完成する(現実態)という弁証法的展開である。樹木は、内在的･潜在的(完成形を内在させる)種子→(徐々に表面化する)分化発展的成長→成熟(潜在能力の完全顕在化)へと向かう。
[まわりの世界と関わることで潜在的可能性が顕在化する]
◎言語の音声に関しては、人間(新生児)は生まれた時点ではすべての音(約70の音素)を聞き分ける潜在的音声識別能力を持つ。所が、英語では44の音素から成り立つので、アメリカの乳児が脳内に作り上げる音素表には44の音素しか含まれない。
◎このようにまわりの世界と関わることで(刺激を受けて)潜在的可能性が現実化(顕在化)する･取り出される、つまり求めた部分だけが与えられ、尋ねた分だけ見出す。それ以外は潜在したままである。
[脳が機能するためには情報が必要]
◎脳内ニューロンの配線は遺伝的に(潜在的可能性として)接続を待ち受けるが、誕生後のある一定期間内に外界から刺激(情報)を受けることによってしか顕在化しない。脳(大脳皮質)が機能するためには情報が不可欠である。子どもにはたくさんのことを体験させましょう。
[情報を受け取ることで潜在的機能･構造は働き出す]
◎幼いときに(臨界期までに)情報を脳に放り込んでやらないと、潜在的可能性として機能･構造を持つとしてもそれが働き出さない。感覚情報を放り込んでやらないと、感覚機能は始動しない。言語を聞いていないなら、言語能力は開花しない。能力は扉を叩かれるのを待っている。
[井戸からどれほどくみ出す能力を開花させたかが問われる]
◎禅宗は、｢無一物中無尽蔵｣という。
◎無一物(何もない)の所に無尽蔵(汲み尽くせないほどに豊か)に含まれる。無一物としか見えない者もいるかわりに、無尽蔵だと感嘆する者もいる。何もないと嘆き悲しむ者がいる反面、取り尽くせないほどに余りあると小躍りする者もいる。その差は｢無一物中無尽蔵｣の井戸からどれほどくみ出す能力を開花させたかによる。あるかないかはあなた次第である。箱の中に何があるかを決めるのはあなたである。
[座敷わらしは家の繁栄を約束する]
◎｢座敷わらし｣は、東北地方(特に岩手県)に伝わる家の精霊、旧家の奥座敷に住む赤ら顔･垂れ髪･おかっぱ頭の童の妖怪である。これがいる家は繁栄し、去れば家運が傾くと言い伝えがある。我家でよく見かける貧乏神(老いぼれ爺様であり追い出すに忍びない)の逆さ版である。
[座敷わらしは、心の奥座敷に住む養育を待つ潜在的可能性]
◎座敷わらしは、心の奥座敷に住むいまだに成長させてもらえない潜在的可能性ではないだろうか。田舎、特に旧家では、大きく成長できる潜在的可能性を持っていても、それにエネルギーを投入できる余地はなく、一生その可能性の存在にさえ気づかなかったかも知れない。その無念さがそのような姿で出現するのでは。
[私たちの心の中にも座敷わらしは眠っている]
◎私たちの心の中にもわらしが居て、心のひだを蹴っているのではなかろうか、妊婦内の胎児が退屈だよとお腹を蹴るように。たまにふと心のうずきを感じませんか。あるいは桃の中に、竹の中に、ウリの中にわらしが居るかも知れません。年に関係なくわらしは育てられます。爺様婆様が彼らを育てるのはそういう意味なのです。
