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第十八章 精神・魂に語りかける民話・昔話  [134]こびとたちと暮らす白雪姫に死と再生を執り行う通過儀礼

第十八章 精神・魂に語りかける民話・昔話
[134]こびとたちと暮らす白雪姫に死と再生を執り行う通過儀礼
[毒リンゴで殺された白雪姫は通りかかった王子によってよみがえる]
グリム童話に「白雪姫」がのっている。雪のように白くて美しい姫は,彼女の美しさをねたんで殺そうとする継母の王妃から危うく逃れ、森の山小屋に住む七人のこびとによって守られる。が、執拗に繰り返されついには毒リンゴによって殺される。その遺体はガラス棺に寝かされるが、そこに王子が通りかかって姫をよみがえらせ妃にする。
[森(無意識)に住む七人のこびたちは下位人格(家事をこなす機能)を表す]
◎白雪姫は森の中にある七人のこびとたちの家に来た。こびとたちは彼女にいう、「僕たちの家の世話をして、料理をつくり、ベッドをなおし、洗濯をし、縫い物をし、編み物をしてくれるならば、僕たちの家にいてもいいよ。何一つ不自由をさせないから」と。
◎森(無意識)に住む七人のこびたちは白雪姫の下位人格(特に家事をこなす機能)を表す。白雪姫が料理・洗濯・裁縫などの技能(こびと)を自分のうち(無意識内)に育ててゆくことをそのような形で言い表す。
[娘として死に、家事機能を確立した大人の女性としてよみがえる通過儀礼]
◎毒リンゴで殺されるとは、通過儀礼である。娘として死に、下位人格(家事機能)を持つ大人の女性としてよみがえる、娘人格が表舞台から背後(下位階層・無意識)に退き、大人の女性が新たに前景(意識)に現れる。娘人格の上位に成人女性が重層する。
◎脳の機能でいえば、意識上で修行した家事機能が自律的(不自由をさせない)機能として無意識下に降って新たな人格(女性)が意識上に浮上する。その新たな人格を目覚めさせる、潜在的可能性(よみの国)の中から呼びかけるのは異性(王子)である。
[通過儀礼を執り行う制度の不在が大人に成り切れない境界線上人格を生む]
◎最近は通過儀礼を執り行う存在がいないせいか、そういう制度が機能しなくなった結果なのか、大人の女性・男性に成り切れなくて、バラサイト・シングル(親に大きく依存した独身者)という境界線上人格が横行する。これはこれでいずれ新しい階層(専門家に対して自由往来者・非特殊者)を形成するのだろうが。
[通過儀礼は退路・逆戻りを断ち切って新しい地位への移行を強制する]
通過儀礼は退路・逆戻りを断ち切って新しい地位(役割)への移行・転換を強制する。最近の親は毒リンゴで娘・息子(人格)を殺してしまう(無意識領域に追い落とす)ほど厳格な態度を取らなくなり、娘・息子人格はいつまでたっても表舞台から立ち去らない。今は友だち親子が当たり前という風潮である。私もその一人ではあるが。
[人生における一つの段階から次の段階へ移る重要な節目に行なう通過・加入儀礼]
◎「通過儀礼・加入儀礼」はフランスの民俗学者ファン・ヘネップ(1873-1957)が提示した。人生における一つの段階から次の段階へ移る重要な節目に行われる儀礼を示す。誕生祝に始まり、宮参り、七五三、成年式、結婚式、葬式に至る家庭生活を中心とする儀礼、入学式・卒業式・入社式など社会生活に関する儀礼。それによって社会的・組織内地位の変更が達成されるが、時には肉体的・精神的試練を伴う。ある意味で入学試験・入社試験もそれに含まれるだろう。
[未練・残念・執着の感情があるので、分離・移行には思い切った変化・後押しが必要]
◎死と再生=破壊と創造は、ある段階から次の段階への通過である。通過儀礼は今まで馴染んだ場所から分離し、新しい場所へと移行する。しかしながら、人には未練・残念・執着の感情と惰性的習慣行動があるので、それらを振り切る分離・移行にはかなり思い切った変化・後押し・精神的ショックが必要である。
[精神的再生は階層構造的積み上げ]
◎肉体的再生はイモリのようにもとの構造・機能を取り戻す恒常性維持だが、上昇力を持つ精神的再生はある構造・機能を下位システムとして自分内の下部組織に組み込み、その上に新しい機能を立ち上げる。階層構造的積み上げである。
[死は、独立する意識が肉体(現実世界)から分離して、完全に無意識に融合する]
◎死は、無意識から分離・独立する意識が肉体(現実世界)から分離して、完全に無意識内に再融合する。再生は、意識が肉体(現実世界)と(再)結合する。意識の(肉体との)死・分離に対する恐怖は自我による独立維持本能から来る。故に、自我は相手に完全に取り込まれてしまう・呑み込まれることを恐れる、どんな意味においても。
[意識は止揚して肉体が下の階層構造を形成する]
◎精神的「死と再生」は、弁証法の正反合の三段階を通過する。最初の正の段階は、意識と肉体が未分化な混沌(意識=肉体の楽園)の状態である。次の反は、遠心分離器にかけるように、意識が肉体から分離する。これを浄化と呼ぶ。泥を含む水において泥を沈下させ、上澄みと分離する。ジュウサーで果汁と搾りカスとを分離する。意識は肉体よりも軽いので止揚して肉体が下位階層を形成する。
[恥は意識と肉体との間に分離が生じた証し]
◎肉体を恥る気持ちは意識が肉体と分離し始めた兆しである。恥は何らかの点で差異・分離(劣位)を感じたことを警告する。アダムとイブは知恵の木の実を食べたがために羞恥心が生まれ裸の身体をかくした。これは身体的なもの(身体的原因)が意識(精神)を動かしているという逆転(肉体上位の精神下位・身唱心随)現象である。
[三段目は肉体と和解・再統合を果たす]
◎意識が上に位置してから、さらに肉体と和解・再統合を果たす楽園への復帰(心唱身随)が望まれる。キリストはユダヤ教の行動(身体)を束縛する律法(規範)、律法優位を批判して、律法の上に愛(心・意識)を置いた。
[一人の人間の中にはさまざまな下位人格が潜む]
◎一人の人間の中にはさまざまなこびと(下位人格)が潜む。一人の結婚した60歳代の男性は、妻に対しては「夫」であり、子どもたちに対しては「父親」であり、親戚に対しては「叔父」「甥」、兄弟姉妹にとっては「兄」「弟」であり、会社にあって部下にとっては「上司」であり、上司からすれば「部下」であり、店に行けば「客」という、社会に向けたさまざまな人格(ペルソナ)を自分の中に潜ませる。
◎社会生活を円滑に運ぼうとすれば、そのような外交・外向性格(ペルソナ)を豊かに育てなければならない。とはいえ、外交性格だけであれば、心の座敷わらしは餓死をする。
[文化の中にある下位文化が文化を豊かで多彩にする]
◎一人の人間の中に下位人格があるように、一つの文化の中にも下位文化がある。文化全体の中で、地域・宗教・職業・性・年齢・趣味などを基準にして下位文化が生まれ細分化・複雑化が進む。そのことによって文化が豊かで多彩になる。

学び その死と再生

学び その死と再生

  • 作者:佐藤学
  • 太郎次郎社エディタス
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