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第十一章 情報・物質・エネルギーの維持・相互作用・循環 [81]情報の結合(連合)と貯蔵(=記憶)

[81]情報の結合(連合)と貯蔵(=記憶)
[体得技能性記憶と取り出し可能性記憶]
◎人体に蓄える記憶には二種類ある。一つは身体的な運動性・習慣性・身体性・手続き性・意識下性・体得技能性記憶である。もう一つは脳内的な表象性・想起性・陳述性・言葉性・意識上性・伝達可能性・取り出し可能性記憶である。表象性記憶はさらにエピソード記憶(生活史記憶)と意味(言葉・記号)記憶とに分けられる。
[自分で一から獲得し、記憶内容を伝達できない体得技能性記憶]
◎自転車乗り(運動性記憶)は自分で一から獲得しなければならないし、記憶内容を記号形式で他人に伝達できない。そのためにそのような職人的技術は弟子入りして以心伝心的に伝授され見よう見まねで盗まねばならない。
[技術立国日本の将来は体得技能性記憶の伝授にかかる]
◎何十年にも渡って身につけ蓄えた職人技術を受け継ぐ後継者不足に日本は悩んでいる。このような技術が消えるのは国にとって極めて大きな損失である。この方面への女性の進出に期待がかかる。「今世紀(21世紀)を担うのは女性ですよ」と私もよいしょします。
[学校存続のためには高度技術伝承に取り組むべきだろう]
◎学校では言葉性記憶に大きく片寄って重点を置いた指導であるから、技術立国日本の将来に不安がつのる。そのせいか学校に期待できない人々は個人指導や専門学校に足を向ける。
◎高度技術伝承や専門知識伝授に学校は本格的に取り組むべきだろう。学校自体の存続のためにも、日本が大きく羽ばたくためにも。
[教育界ももっと技術・技能学習に比重を持たせるべき]
◎教育界も科目選択の幅を広げて、もっともっと技術・技能学習に比重を持たせるべきではないか。特に知識学習に面白みも将来への有用性も感じられずに、意欲を持てない学生は、無限連鎖(穴を掘ってはそこを埋め、翌日にはまた穴を掘っては埋め)の作業をする囚人か、岩(イス)に鎖で縛られワシに肝臓(劣等感)をついばまれる責め苦にあうプロメテウスの如しである。
◎だが最近事情は少しずつ好転しつつあり、普通科が減って、特別(専門)科が増える傾向にある。技術者・専門家を講師にどんどん採用されたし。
[脳階層の上位と下位とでは感覚情報の結合方式が異なる]
◎私たちの意識レベル(覚醒度)が高い時には、高次大脳新皮質領野が主導権を握り、疲労(注意力の減衰・意識レベルの低下)状態ではより単純な低次の階層だけが作動する。下位階層の感覚情報の連合は時間的同時性か空間的隣接性によって起こるエピソード記憶となる。
[上位階層では抽象的意味記憶で下位階層では具体的エピソード記憶]
◎上位大脳新皮質の認知段階では意味による連合が起こる。これが意味記憶となる。上位と下位とではこのように感覚情報の結合方式が異なり、下位では具体的で上位に行くほどに抽象性を増す。
[言葉は各種感覚情報の統合拠点となる]
◎人間だけはさまざまな(右脳内)感覚情報を(左脳内)言葉(核)の下に統合させる。つまり言葉が各種感覚情報の統合拠点となる。「リンゴ」という言葉は「甘酸っぱい」味覚・「赤っぽい」視覚・「つるつるした」触覚・「甘い」嗅覚・かじる時の「シャキシャキ」聴覚を統合する。
[動物は運動性記憶とエピソード記憶を持つ]
◎動物では、扁桃体で味覚(肉の味)と価値・情動(例えば美味)と結びつけ意味づけされた情動付加情報は海馬体に送られて過去のよく似た記憶(例えば肉のにおい)へと結び付けられる。
◎このような感覚間の連合・協応は生後数ヶ月の乳児でも見られ、音と映像が一致する方を好む。動物は運動性記憶とエピソード記憶を持つが、人間はそれに加えて意味記憶も持つ。
[海馬体がエピソード記憶に関与する]
◎海馬体を破壊したラットは、条件反射は阻害されないが、エピソード(体験)記憶がよみがえらない。そのため、以前には恐怖を感じた場所であってももはや体がすくむ反応は起こらない。
◎情動の発現には場所状況を持つエピソード記憶が重要である。海馬体には特定の場所に行くと発火点灯する場所ニューロンがある。海馬体は場所情報のように比較的客観的な知識の記憶に関連する。
[エピソード記憶から時間と場所の情報を除去すると意味記憶になる]
エピソード記憶は、コード化(入力)時、左脳の前頭連合野が活動する。想起(出力)機能は、右脳の前頭連合野が持つ。エピソード記憶前頭葉と海馬体で、意味記憶は左側頭葉でなされる。運動記憶は大脳基底核が関与する。エピソード記憶から時間と場所(空間)の情報を取り去ると意味記憶になる。
[記憶形式によって関与する脳部位が異なる]
◎このことを考えると、意味記憶大脳新皮質(側頭葉)が、エピソード記憶は海馬体(大脳辺縁系古皮質に属す)が、運動記憶は大脳基底核(扁桃体が含まれる)が中核になる階層構造だといえそうである。
[意味記憶に興味ない者には無意味記憶だから、エピソード記憶に引き戻せ]
◎興奮し過ぎて大脳新皮質が機能停止中の記憶は残らず、平静・冷静でないと学習には向かない。興味を持ち心が集中するときによく憶えられる。学校教育は意味記憶に重点を置くが、興味のない者にはそれは無意味記憶でしかない。エピソード記憶に引き戻して指導するのがよいのでは。

カンデル神経科学

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